子どもの村の教育

子どもの村のめざす子ども像、「自由な子ども」とは

子どもの村は、「管理されたよい子」を育てる学校ではありません。子どもを一人の人として尊重し、自分で考え、自分で選び、自分の人生を生きていこうとする力を信じ、その育ちをともに支えます。私たちが考える「自由な子ども」とは、感情・知性・人間関係のすべてにおいて、人や制度にしたがうのではなく、自分で考え、自分で引き受けていく子どもです。

感情の自由

「いい子」でいることからの解放

子どもたちは、知らず知らずのうちに「こうあるべき」「ちゃんとしていなければならない」という見えない不安や緊張の中で生きています。私たちはまず、子どもたちをその圧力から守り、感情を解放します。すると安心できる関係の中で、子どもは「評価される自分」ではなく「生きている自分」を取り戻しはじめます。確かな自己意識を持ち、「自分は自分のままでいいんだ」という自信と自己肯定感を持てるからです。

知性の自由

「教えられる学び」からの脱却

知識を効率よく教え込むことは、私たちの目的ではありません。子どもは本来、世界に対して問いをもつ存在です。「なぜだろう」「やってみたい」といったその小さな火を消さず、むしろ大きくしていくこと。既成の答えに従うのではなく、自分で問いを立て、試し、失敗し、また考える。そのプロセスの中でこそ、知識は意味を持ち、知性は「生きて働く力」になります。決められた知識を一方的に受け取るのではなく、日々の生活の中から自ら課題を見つけます。 実際に手を動かし、試行錯誤して知識や技術を「創造」する体験を重ねることで、一生モノの探求心と知恵を養います。ここでは、子ども一人ひとりが世界に向き合う小さな科学者です。

人間関係の自由

「仲良くしなさい」をこえて

人間関係は、きれいごとでは学べません。意見がぶつかること、わかり合えないこと、思い通りにならないこと。その一つひとつを避けずに引き受け、対話し、悩み、折り合いをつけていきます。私たちは、「いい関係」を教えるのではなく、関係をつくるプロセスそのものを子どもにゆだねます。自分の意見を持つこと。相手の存在を認めること。その両方を行き来しながら、共に生きるリアルな力が育っていきます。子どもたちは、「〇〇すべき」という押しつけの道徳ではなく、一人の自立した人間として周囲と関わります。 仲間と目標を共有し、役割を分担して困難を乗り越える。その経験を通じて、共に生きる楽しさと、しなやかな対人関係の術を学んでいきます。

3つの基本方針 / 子どもが「つくる」学校

南アルプス子どもの村には、教育の根幹を支える3つの原則があります 。

1.自己決定の原則

「決めてもらう学校」からの転換

多くの学校では、子どもは「決められたことをこなす存在」です。ここでは違います。学びも、生活も、関係も、子ども自身が関わり、考え、決めていきます。プロジェクト、寮など、あらゆる場面に対話と意思決定があります。もちろん、簡単ではありません。時間もかかるし、ぶつかりも起きます。それでも私たちは、そのプロセスを手放しません。なぜなら、民主的な社会を生きる力は、経験することでしか育たないからです。学習計画や行事の立案は、子どもと大人の対等な話し合いで決まります 。どのクラスに入るかも自分で選びます 。クラス、寮、そして全校ミーティング。私たちは、話し合いを何よりも大切にする学校です 。学校の大人は指示する人ではなく、環境を整え、問いを投げ、支える伴走者です。自由な学校ほど、職員はごまかしがききません。

2.個性尊重の原則

「同じであること」への違和感から出発する

年齢が同じだからといって、同じことを同じペースで学ぶ必要はありません 。一人ひとりの違いや「好き」を尊重し、幅広い選択肢の中から自分に合った学習や活動を選び取ることができます 。学校中が異年齢の集団での学びの場になっており、多様なグルーピングで、ひとりとみんなでをいったりきたりする柔軟な構造になっています。ここでは、「自分でいていい」が学びの土台です。

3.体験学習の原則

「知る」ではなく「生きる」学びへ

知識は、つかわれてはじめて意味を持ちます。だからこそ私たちは、生活と切り離された学習ではなく、現実とつながった体験を重視します。私たちの学びの中心は、直接体験と実際の生活にあります 。時間割の半分を占めるのは、実際につくったり調べたりする「プロジェクト」という活動です。子どもたちは自分の興味があるテーマのプロジェクトを選び、そこがそのまま自分の「クラス」になります。テーマは衣・食・住といった「生きること」そのもの。教科の枠を越えて、現実の課題に向き合います。子どもたちは、自らテーマを選び、仲間とともに試行錯誤を重ねながら学びます。そこで育つのは、知識の量ではなく、世界とかかわり続ける力です。

全校ミーティング

学校を動かすのは、子どもたち自身

この学校では「話し合い」は日常です。週1回の全校ミーティングをはじめ、クラスや寮でも日常的にミーティングが行われています。活動の計画、困りごとの解決、そしてパーティーの企画まで、学校で起きるあらゆることが、対話を通して決まっていきます。子どもも大人も、一人一票。立場による上下はありません。春まつり委員会、サッカー大会、Mフェス委員会などの活動も、子どもたちの発案から企画されます。ミーティングそのものをよりよくするための委員会も存在します。自由な学校にとって、ミーティングは単なる手段ではありません。学校の質そのものを決定づける心臓部です。この「とことん話し合う」経験の積み重ねが、自分を大切にしながら、誰かと共に生きていくしなやかな自立へとつながっていきます。

小学校時間割

決められた時間をこなすのではなく、意味のある時間を生きる。

本校の時間割は、教科ごとに細かく区切られたものではありません。子どもたちの活動や探究が自然に流れるように構成され、学びと生活が分断されない設計になっています。時間に合わせて動くのではなく、活動に合わせて時間が息をする。そんな時間の使い方を大切にしています。

プロジェクト(体験学習) 学びの中心にある「生きた活動」

本校の学びの大半は、「プロジェクト」と呼ばれる異年齢混合のクラスで行われます。何年何組はありません。それぞれのプロジェクトにはテーマがあり、子どもたちは自分の関心や仲間との関係を考えながら、子どもたち自身がプロジェクトを選ぶと、そこが自分のホームルームになります。その選択は、決して軽いものではありません。子どもたちは驚くほど真剣に、自分の居場所を選びます。プロジェクトは、教科の寄せ集めではありません。「学ぶための活動」ではなく、活動そのものが学びであるという考えに立っています。つくる、育てる、表現する、かかわる。そのプロセスの中で、結果として教科的な学びが立ち上がってきます。これは、教育学者デューイが提唱した「活動的な仕事」を、現代において具体化した学習形態です。本や資料の中だけの知識ではなく、実際の生活に結びついた直接体験が学習の中心です 。たとえば、「ここに柱を立てるには、どれくらいの長さが必要かな?」そんな問いから学びがはじまります。正確な図面を引くために長さを測り、図形を組み合わせ、時には複雑な角度を計算します。自分たちの活動をまとめてみんなに発表したり、本をつくったりする中で、「どうすれば相手に伝わるか」を考え、表現するを力を養います。「先生」ではなく、共に歩む「大人」として、私たちの学校には、いわゆる「先生」はいません。子どもたちは大人のことをニックネームで呼び、対等なパートナーとして接しています。ひとクラス約30人前後の異学年の仲間が集まるプロジェクト(クラス)に、2~3人の大人が担任として参加しています。

プロジェクト一覧(小学校)

住(昔のくらし・たてもの)

クラフトセンター

古民家のリフォームを通して昔の生活にふれ、今のくらしを考える。

食(料理・田んぼ・畑)

おいしいものをつくる会

田んぼや畑を楽しみ、存分にあじわって、人々のくらしを考える。

表現(げき)

劇団みなみ座

からだ全体で自己を表現し、気もちを解放させる。

衣(ヒツジ・糸・布)

わくわくファーム

ヒツジの飼育や利用を通じて、いのちのあたたかさや様々な文化に触れる。

住(おもちゃ・たてもの)

ひらめ木工房

おもちゃづくりや大工仕事を通して、自分たちの生活を楽しく豊かにする。

プロジェクト一覧(中学校)

食(農業・料理・ゼロウェイスト)

くらしの歴史館

食と農を中心に、いのちを育て、食べものをつくり、0から食堂やゼロ・ウェイストの実践を通して、人と自然が共に生きるくらしのあり方を考える。

森(林業・木工・建築)

ものづくり研究室

森林や林業、木工・建築を通して、自然の循環や日本の社会課題を学び、持続可能なくらしを考える。

表現(演劇)

劇団カメレオン

創作劇づくりを通して他者を演じ、自分と向き合い、自分を表現し、人の心を動かす力を育む。

環境・人権(社会課題)

ゆきほたる荘

環境や人権などの社会問題をテーマに、自ら課題を見つけ、多様な人との対話や実践を通して、よりよい社会のあり方を考える。

基礎学習

抽象と具体を往復する力を育てる

体験だけでは、学びは深まりません。プロジェクトの中で生まれた問いや課題を手がかりに、必要な知識や技術を身につけていきます。資料を調べる、文章を書く、数をあつかう。いわゆる「読み・書き・計算」といった基礎的な力も、切実な必要性の中で学ぶ「生きた学習」となっています。子どもたちはこの時間を「ことば」「かず」と呼び、生活や活動と結びつけて学んでいきます。抽象的な内容を扱うこともありますが、ここでも「自分で決める」ことと「自分らしさ」を大切にする姿勢は変わりません 。誰かに強制されるのではなく、自分のペースで、自分なりの答えを見つけていく。そんな「自分から手をのばす学び」を大切にしています。

フリーチョイス(自由選択授業)

「好き」から広がる学び

子どもたちは、自分の興味に基づいて活動を選びます。表現や身体をつかった活動が中心です。学期ごとに、8~10の選択肢の中から3つを選び、週に3コマ取り組みます。一見すると遊びのような活動も並びますが、その「夢中」の時間こそ自分の世界を広げる入り口になるのです。一部を紹介いたします。

小学校

つくる楽しさをあじわう

五感で楽しむ!自由な表現とアートの時間

絵の具による表現を楽しむ『アトリエ』や、本物の食器もつくれる『焼きもの』『切り絵』『手芸』『パステルアート』『スケッチ&デッサン』など。教室だけでなく、時には外にも出て題材を探します。

音楽に触れる

音に合わせて、歌って踊って音を楽しむ

音楽に合わせて体を動かす『リズムダンス』や、初めての子でも楽しめる『ピアノ入門』、楽器もつくり歌に合わせて奏でる『うたおと遊び』など。

のびのびと体をうごかす

水泳やクライミングまで!多彩な運動体験

『サッカー』や『ドッヂボール』といったスポーツもあれば、自然のなかで思いきり体を動かして昆虫や魚も観察する『生きもの探し』、日本に昔からある『おにごっこ』をいくつも楽しむものも。学校外の施設も利用し、『水泳』や『クライミング』にも挑戦できます。

中学校

探究心が芽生える、多彩な授業

自分たちで選ぶ、自由で多彩な学びの選択

体育では『バドミントン』や『サッカー』『水泳』など。美術では『焼きもの』や『写真』『メディアアート』など。音楽では楽器や歌に取りくむ『ミュージック』や『ダンス』『和太鼓』『ギター入門』など。1年間のなかでどの分野の授業も履修するよう、自分たちで選びます。教科の枠からは離れますが、学校で壊れた設備や保護者の方から預かった家電をなおしてみる『修理クラブ』や、校内で発行している新聞づくりをする『広報部』など、ユニークなチョイスもあります。